バスの雑学読本

マニア入門書として及第点

初めは車両の話。基本として国産4メーカーの話が出るが、さてどのように見分けるか。小生もよく人から「日野と三菱は何が違うのか」等と聞かれるが、言葉で回答するのが難しい。これが電車なら貫通扉があるとか方向幕の場所が違うとか、かなり大きな特徴の違いがあって説明が容易であることが多いが、バスの顔の違いは人のそれに似ていて、違うことが認識出来ても何がどう違うとはなかなか言い難い。それは著者も同じ考えであるのか、結局「覚えるしかない」という結論となっている。

高速バスに関する記述に紙幅が多く割かれている。一般の路線バスに比べて書き易いのだろうか。確かに車内サービスや予約システム、切符の購入方法等、話題は多い。しかしこの章を端から読み進めていくと、同じことが繰り返し書いてあるわけではないのにどうも冗長に思えてしまう。中央書院で高速バスというと鈴木文彦氏の何冊かの著書が思い起こされるが、ある特徴についてその特徴を具備する事業者を片っ端から列挙する(しかしそれが完全なリストとなっているとは限らない)ような点で、鈴木氏の著作の影響ではないかと思わされる面がある。

また、高速バスといえば最近存在感を増しているツアーバスも避けては通れない話題だ。これについては路線バス事業者サイドの声は当然のことながら批判一辺倒であるが、バス雑誌等が日頃からの情報提供を受けている良好な関係を損ないたくないがためにその論に完全に乗ってしまっているのが気になるところ、本書では安全性等一般的に言われている懸念事項を述べた後、「しかしツアーバスはネット上で予約・決済が出来るなど、路線バスに見習って欲しい面もある」と、一定の評価を与えている。

最後の章は海外の話題。海外旅行を多くこなす著者ならではの内容と言えるが、それでも世界各国を一人で網羅するのは到底無理と見える。内容もある国は普通の路線バスのみ、別の国は高速バスだけ、というように、内容の不統一が見られる。読んでいて不満ではあるがこればかりはやむを得ないかも知れない。また、日本の中古車天国として有名なミャンマーについての記述がちょっと引っ掛かった。「何故日本車ばかりかというと、欧米が経済制裁をして輸入が出来ないからだ。金のためならば何でもよいという日本の姿がここでも見える」という感じの表現である。国際関係を記述するのに充分な紙幅が与えられていない書籍において、この最後の一文のような短絡的な「自虐評価」となるような感想は避けて欲しかった。

巻末には全国の路線バス事業者一覧が掲載されている。保有車両数、主な営業エリア、簡単な特徴紹介といった内容だが、特徴紹介は当然のことながら著者の主観であり、他のことを差し置いてまで書くようなことか?と思うものもある。これからマニアの道に入ろうとするビギナーがこれを読むと、知らない事業者について偏った先入観を持ってしまうかも知れない。

2006.7.1作成
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