バスでまちづくり都市交通の再生をめざして

都市内のバス輸送の在り方、そしてバスの在らせ方

最近流行のコミュニティバス、それを交通工学入門の観点から論じた、と言えば本書の性格の一端を示すことになるだろうか。

都市内輸送としてのバスの在り方はどのようなものか、そしてそもそもバスが存在するような都市構造とはどのようなものか。世界で唯一三連節車体のバスが走るブラジル・クリチバが、このようなBRT(Bus Rapid Transit)を導入するに相応しい都市構造から構築したという話が本文中で述べられており、それと繋がるところもあろうが、バスを活かすにしてもバスでは役不足の都市構造もあるからそのような点は弁えるべきであるという論がある。確かに田舎町で幾ら需要を掘り起こしたところでバス1台分の利用客が見込めない場合はタクシーを活用する等の方が費用的にも環境対策としても勝るだろう。「バスの復権」を語るとき、「本当は潜在需要があるのだからバスを便利にすればいい」という論調で終わりがちで、その「便利にする」を中途半端な形で具現化して大失敗しているのが多くの地域のコミュニティバスであるとも言える。バスを便利にして潜在需要を掘り起こさねばならない、しかしその一方でそもそもバスなどお呼びでない環境でないかも確認しなければならない、という、単純なバス復権論に突っ走らないところにバランス感覚を感じる。

また、コミュニティバスを導入した場合の既存路線との整合性も論じられている。そもそもコミュニティバスが失敗例だらけなので、如何に成功させるかというだけで充分な論説になってしまうため、今まで走っていたバス路線の立場と絡めて語られることが、これまた少ない。しかし考えてみれば、普通のバスは200円なのにコミュニティバスなら100円で乗れるというのもおかしな話である。そのような歪みの是正策として、市内の一般路線バスの運賃をコミュニティバスに合わせて引き下げた龍ヶ崎市の例や、逆に一般的な概念の「コミュニティバス」の運行とはせずに、需要調査や路線設定といった環境整備を市が行った上で民間事業者に独立採算にて運営させるという三郷市の例が紹介されている。

更に発展して、そもそもバスの運営主体と行政はどのような関係であるべきかという点にまで論は進む。欧米と比較すると日本の交通事業を独立採算とする手法は特殊とも言え、それが長所も短所も生んで来たと言えるが、大都市の鉄道など需要が充分確保出来ている環境の交通機関はこれで成り立っているものの、多くのバスのようにひとたび行き詰ってしまうと「日本流」では立ち行かなくなってしまう。そうするとそもそも必ずしも黒字化を前提としない公営とするか、他の公共事業のようにバス事業者は所定の報酬を自治体から得て運行を受託するのみの存在とするか、という欧米流を参考にすることになる。これは地域全体での交通サービスの均衡を図る上でも避けて通れない考え方と言える。また、得に車社会となっているアメリカでは公共交通を利用して貰うための施策は様々に検討されており、本書では20年以上前の例ではあるがバス利用促進プロモーション例の一覧が掲載されていて興味深い。このような欧米の自治体が主体となった交通網づくりを如何に参考として、日本流のバス事業者が各社各様に育て上げてきたノウハウや経営環境を融合させていくかが、日本の今後の交通に問われる課題ではないだろうか。

2007.2.21作成
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