人を生かし地域を活かす暮らしを変えた道50選

道路族読本?

全国各地の「暮らしを変えた」道やそれにまつわる出来事50事例を纏めたものである。やはり地方部の悪路や断線区間を繋いだというものが沿線に与えるインパクトが大きいから、そのような事例が多い。地域の人々に喜ばれている道路であることには間違いないけど、だからといってこの予算不足の折に道路建設を賛美ばかりしていては…という思いから、本稿の副題をこのようにした。

尤も、挙げられた事例の多くは事業費を経済効果や収入が上回っているとしている。そのような事業であればひとまずは成功ということになろう。また、環七と東京湾岸道路の交差点(葛西臨海公園交差点)も採り上げられるなど、都市部にもある程度目を向けていることから、地域や特性による偏りはそれほど大きくはない。

建設事業事例で特筆出来るのは、沖縄モノレールが採り上げられていることである。この点は最早「道路族」とは言えない。車一辺倒の社会を改革する在り方をもきちんと採り上げていることには感心が持てる。しかしこれもこの鉄道が「軌道」として旧建設省の管轄の下に造られたからこそ、「道」が主題の書に登場することになったのであって、「鉄道」であっては法的にも政策施策の連続性からも凡そ「道」にまつわる事柄とは扱われないであろう。

第4章では成功した道の駅の事例が集められている。小生は不幸にしてこのような道の駅に出会ったことがない。客は殆どおらず、職員は皆事務室に引っ込んでいて、掃除のおばちゃんがその辺でだべっている…そんな光景ばかりを目にして来た。だから「道の駅」が、一般道でのトイレ需要以外で大きく役に立っているとは信じ難かった。だから本書に掲載された事例は小生にとっては驚きであった。

特に感心したのが宮城のあ・ら・伊達な道の駅。ネーミングセンスはこの際とやかく言わない。道路に面しているだけでなく、陸羽東線の池月駅からも近いので鉄道利用による訪問客がかなりいるということである。駅に近い立地となったことが意図したことなのか偶然なのか知らないが、少なくとも鉄道駅前という立地が資産価値をそれほど持たないからこそこのような場所に建設出来たのであることは間違いなかろう。つまりそれは鉄道駅の価値が低いということであるが、それによって逆に鉄道利用者が増えたということは実に面白い。現在は店でも観光施設でも、ロードサイド型と都心型というのが完全に乖離してしまっている。前者に公共交通でアクセスするのは至難の業だし、後者に車で乗りつけるのも面倒。その点この「駅」は融合型として示唆的である。これが可能な立地条件は確かに多くはないだろうが、今後もっと誕生していいのではないだろうか。

ドライブは楽しい、だけど道路族は困る、という自分勝手な立場から道路関係の情報には複雜な感情を持って接することが多いが、本書は一応手放しで成功事例集と賛美してもいいのではないか、と思った。

2006.1.15作成
トップ > 書評 > 現在地 暮らしを変えた道50選 共同通信社[編] ダイヤモンド社 2004