消えた駅名 駅名改称の裏に隠された謎と秘密

地形図趣味の大御所による、駅にまつわる地史講釈

著者は大の地形図マニアであり、地図を基軸に様々な地理の話題を著して来た。鉄道史にも造詣が深く、本書はそうした流れの中の1冊。

日本全国の改称された駅約250を採り上げ、1駅1ページの「読み切り」形式を採っている。話題の多寡に依らず絶対に過不足なく1ページなので、水増ししたような感じを受けるものはないが、尻切れトンボに見える項が多いのが玉に瑕。

幾つかの駅については、旧称を名乗っていた時代と現在とを現地の地形図を並べて比較している。これこそが今尾恵介著作の面目躍如!と言いたいところであるが、残念ながら本書の内容は文章で充分であるものが多く、地形図の添付はとってつけたような感じがしてしまう。どうせなら採り上げる駅の数を減す代わりに全駅を地形図付きとして、地名ばかりでなく駅周辺の風景の変遷等も絡めた内容にした方が良かったのではないか、とも感じる。

批判めいたことを書いてしまったが、地図関連の話題を過度に期待しさえしなければ、内容そのものは充実しており、掲載駅の改称の背景を知るには必要充分である。巻末に改称歴のある駅の全リストも掲載され、資料価値も高い。このような書を読むと地名の由来や駅名改称の理由を知らないものが多く、へぇ〜と思うと同時に同じ分野を趣味とする者としては修行不足をひたすら恥じるばかりである_| ̄|○

全国各地の駅が出来るだけ均等に採り上げられるように配慮していると思われるが、それでも著者は南関東に住み続けているためか、やはり関東の駅が多い。そうであるならばいっそのこと他地域は割愛して関東地方の完全紹介を著したなら、非常に面白いものになったのではないかと思う。

尚、本書が出版されたのは平成の大合併という名の地名大粛清の黎明期。本文中にも以前からの安直な地名駅名へのコメントと並んで、これからも破壊が進むであろうことを念頭に置いた記述が目立つ。前半では出来るだけ「平静を装って」客観的な書き方がされているが、後ろの方になると結局批判的な記述となる。やはり昨今の動きは文化に対しては破壊行為でしかなく、そういう観点の文章がそれに対しての批判を抑えるというのは不可能というものだろう。この動きを肯定すれば文化の自己否定にすら繋がりかねないのだから…。

2006.1.27作成
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