最新事情!全国鉄道おもしろ雑学事典

広く浅く、毒にも薬にもならない無難な内容

著者は間違った現状認識による評論が多いことなどで批判されることも多いが、鉄道、特にJRに対し遠慮なく物申す姿勢が評価出来ると思っている。そんな著者のこの本は、さて――。

この著者による文章は殆どが常体である。また、本書のまえがきも常体である。にも拘らず本文は敬体であるところに違和感を覚えてしまう。普段の著作と違う書き方をしているという点からと、まえがき敬体本文常体という形式ならよく見るが、その逆であるという点からと。鉄道の知識が浅い人向けの一般知識を語ることを目的に、内容も客観性を持たせようとし、文体をいつもと変更したのかも知れない。

そして内容であるが、全国鉄道事情大研究等に代表されるような批判はトーンを抑え、客観的事実を評価を極力避けて記述されている。

そうは言っても「(広義の)走ルンです」の増殖には一言申し添えざるを得なかったようで、私鉄までもがこのような電車を導入しているのは不景気のせいであり、景気が回復すればきっとまた独自の新車が登場するであろう、と期待を述べている。小生も走ルンですは嫌いなのでそうあって欲しいが、本当にそれが原因だろうか。また、転換クロスシート至上主義者である著者は、それが導入されない首都圏を「田舎者」と揶揄することも忘れない。

最終章は「日本全国鉄道スピードランキング」と称し、有料特急と料金不要優等列車等に分けてJR私鉄区別なく表定速度ランキングを載せている。しかし表定速度算出区間の選定がまた微妙な感じがする。基本は全区間で、末端各駅停車になる場合はその区間を除く、という雰囲気に見えるが、どうも統一感がないように感じる。例えば京葉線通勤快速をノンストップとなる八丁堀〜蘇我で算出しているが、八丁堀が東京と比較してそれほど重要な目的地ではないことを考えると不自然ではないだろうか。結局こういう統計を取るにも評価基準の設定が難しいのだということが分かるばかりで、肝心の統計はあくまで参考、となってしまう。それでも特急のランキングはよく目にするが、鈍行や路面電車までランキングを付けているのは面白い。

結局本書は「広く浅く」の内容であり、何か特定の事柄を深く掘り下げたものでもない。従って鉄道に関する一般的な知識を取り入れるためのものであって、既にマニアと言われるようになっている人が改めて読んで得ることは殆ど無いだろう。尤も、所期の目的通り知識の無い人に読ませるには川島流の毒が効き過ぎかと思わなくもない。

2006.2.9作成
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