はんだ付技術なぜなぜ100問

「なぜ」ではなく「なに」で語って欲しかった

著者はこの世界の研究一筋の専門家である。本書はですます調の柔らかい語り口で、はんだ付の入門的なところから数式を使ったちょっと学術的な面まで、分かり易く解説している。

書名の通り、はんだ付の100個の「なぜ」を解説する、という構成で、そういうタイトル及び構成こそが読者の目を惹くことを狙ったものと考えられる(実際に小生もとっつき易そうなこのタイトルに本書を手に取った)が、そうした構成に内容を合わせ込むべく無理をしたように見える面もある。まず、初心者にとっては、本文で「なぜ」と語られている事柄が、そもそも知らないことであることが多いこと。「なぜ、○○なのでしょうか」ではなく、「○○とは何でしょうか」として貰った方が有難い。知らない事柄をいきなり「なぜ」で始められると、初心者お断りかと多少引いてしまう。本文は「なに」に対する回答であることを念頭に置いていると見られるだけに、尚更である。

著者は教養が深く、コーヒーブレイクと称して所々に本題と関係の無いちょっとした囲み記事を載せている。ただ、本当にはんだと全く関係が無いものが多く、なんだこりゃ、と思ってしまう。言葉遊びでも何でもいいから、本論と関係は無いがはんだと何かしら繋がりのある事柄でブレイクさせて欲しかった、と思う。尚、本題に関係のあることといえば「はんだ付」と表記することにも拘りがあり、曰く「付け」と送る場合はその後ろに言葉が付く場合(付け焼刃、等)であるから、ツケが語尾となるハンダヅケは「受付」同様、送らない表記とするべきだ、と。はんだを漢字としないのも「半田」という字に根拠がないからだということで、表意文字を大切にするという意味で漢字重視が信条の小生としては行き過ぎを反省させられた。

ついつい批判が先に立ってしまったが、冒頭に述べた通り初心者にも入り易く、平易な文体で分かり易い内容構成で非常にお勧めである。私は電子工作という単純な作業でこの世界に少し踏み込んでいるだけだが、はんだが使われているのは工作ばかりではないわけで、工業的な見地からの、効率性とか信頼性といった評価基準が、単なる金属版の糊付けではない(接着剤自体も奥が深いが:p)奥の深い世界の存在を教えてくれる。セルフアライメント効果というものを本書によって知り、翌日からの作業に応用し、はんだを過熱してはいけないことの理由を教えられ、考えれば当たり前のこととはいえコテ先の絶縁性の重要性を認識させられる。手作業に関連する事項でも得ることは多い。

尚、正巻とそれから10年弱を経て発刊された続巻があるが、冒頭の数問が両者で似た内容となっているので、続巻は単なる新版か、と一瞬思ってしまうが、読み進めると両冊必要であることが分かる。ただ、続巻の方がより専門的な、或いは細かい内容に踏み込んだものが多い。

2006.2.3作成
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