最新 世界の地下鉄

「地下鉄」の定義は?

タイトルの通り、世界の全ての地下鉄の紹介をしている本。

しかし、地下鉄の話をすると必ず初めに躓くのが、「地下鉄」の定義。本書も御多分に漏れない。どの都市を採り上げるべきかということを巻頭で頑張って定義付けをしている。ところがその「郊外路線の都心部地下走行を除く」という規定を自己否定して、シドニーとメルボルンのそのような形態の路線は採り上げている。これを採り上げないとオセアニアの紹介が0になってしまうための配慮のようだが、世界には様々な姿の国家があるのだから地域によって地下鉄がなかったりしても不思議ではない。混乱の元だからそんな配慮はすべきではない。

日本国内についても海外と全く同じスタンスで紹介されている。特に国家の概説が対外向けのような書き方でちょっと可笑しくなってしまうが、むしろ特別扱いしないことで都市や地下鉄の姿を他の国々と同列に比較することを容易たらしめており、これは歓迎出来る。

その日本国内について納得行かないのが東京臨海高速鉄道と埼玉高速鉄道の扱い。どちらも採り上げられているわけで「地下鉄」なのだろうが、SRは兎も角TWRは一般的な感覚からすると果たしてどうだろうか。どちらも駅看板に営団都営共通サインが使われているという点では確かに「地下鉄」だが、それは営団都営との密接な資本関係に起因するものだろうし、…とここでも「地下鉄」の定義付けの困難さを感じるわけだ。

尚、掲載されていること自体と共に、掲載の仕方も疑問。TWRはどう見ても東京の地下鉄のネットワークの一員だが、その路線図には記載されておらず、かといって独自の路線図も掲載されていない(本書は本来は各都市の地下鉄路線図が全て掲載されている)。また、SRはなんと「さいたま市」の地下鉄として扱われているのである。そもそも南北線の延長線なのだからこれを「別の都市の地下鉄」として扱われることには違和感があるし、それを譲っても埼玉市には終点の1駅しか存在しない。川口の地下鉄と言うならまだしもこれは如何なものか。

さて入口での水掛け論はこのくらいにして、内容はどうか。開業年月日や電化方式、軌間といった基礎データは充実しており資料価値は高いが、都市によって大きさがまちまちの路線図との配置の兼ね合いで、そうしたデータが必ずしも見易いとは限らないのがちょっとした難点。

全ページフルカラーであることは素晴らしいが、紙幅の関係からか折角のカラー印刷の価値を最大に活かせる筈の写真はそれほど多くはない。特にその都市の地下鉄の特徴として挙げられているような事柄が写真では紹介されていなかったりするともどかしい。

営業路線がまだなく建設途上の都市については、その開業が目前という(つまり本稿執筆時点では開業済)南京等を除いては巻末資料に簡単に纏めてあるだけ。この点も実に物足りない。高雄などかなりネットワークの現実像が見えて来たところなどは本文中に入れてもいいのではないか、と思う。

兎に角、掲載されている情報は既に大量ではあるが、その裾野の広さと将来性故に、更なる内容の充実を期待してしまう本である。そして、もしかしたら「地下鉄」に拘らず、「世界の都市鉄道」とした方がすっきりするかも知れない。

尚、タイトルに「最新」とあるのは当然旧版が存在するからであるが、何年経っても名前だけ「最新」であり続けるこのネーミングは何とかならないだろうか。「2005年版」としてくれた方が読む側、特に本を探す側にはいいと思うのだが、出す側はイメージ戦略でそうはいかないのだろうか。

2006.1.27作成
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